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48 接頭語と接尾語

八溝のことばが粗野であると言われるのは、語のはじめに付ける接頭語と語の末尾に付ける接尾語の多いことが挙げられます。接頭語:接尾語には表現を柔らかくする働きもありますが、感情を強調する接頭語が多いことから、耳に強く残り、乱暴な表現と捉えられています。
《接頭語》 『ぶん:ぶっ』 「うつ」の音便です。撥音便としては「せーふろぶんぬいどげ(据え風呂の水を抜いておけ)」と言われます。水が勢いよく抜けるからの表現です。「ぶんむぐれる」のは、感情が抑えきれない状態です。他に「ぶっぱたく」、「ぶっくりげーる(勢いよくひっくり返る」などは促音便もありが、音便にならない「ぶちのめす」もあります。接頭語の中でも一番多用したもので、濁音であることから特にきつい響きがありました。
『おっ』 「おす」の促音便形で、「おっぺす」は無理に圧力を掛けることで、許容量を超えて「おっぺしこむ」になります。「おっ被せる」は責任を転嫁することで、さらに不本意に別な場所に異動されると、押し送られることで「おっこくられる」となり、力を入れて折るのは「おっちょる」とります。無理に曲げるのは「おん曲げる」と撥音便になります。ニワトリを別な場所に「おっとばす」は追い飛ばすの音便で別系統です。
『かっ』 「搔き」の音便で語勢を強めます。野球の応援で「かっ飛ばせ」というのは同じです。「あだまかっくらされっちゃった(頭叩かれてしまった)」という時は強く殴られたことになります。御飯も急いで「かっこむ」のは掻き込むこと、人をひどく貶すのは「かっぺなす」となります。「枝をかっ切る」、強くつねるのは「かっちねる」となります。
『ひん』 強意の接頭語で、八溝ではリヤカーを反対方向に「ひんまわす」などと広く使われますが、怪我をして膝っかぶの皮膚が「ひんむげる」など、ひどく損傷を受けた時にも使います。また、竹をひん曲げる時には無理に力を入れることです。
『され』 強意を表し、「せんせいにゆっちゃがら(先生に言いつけるから)」と言われても、「されがまね(いっこうに構わない)」と使います。「され」は他の用例を思い出せません。
《接尾語》 『め』 通常は蔑称とされ、「こんちくしょめ(この畜生め)」と他人を罵りますが、「ねご(猫)め」「犬め」など親愛の情を示すことも多く、子馬のことは「とんこめ(当年子め)」と言います。標準語的な「私めが」などと、謙譲の表現には使いません。
『て』 状態を表す「たい」の転訛で、煙ったいが「けむって」となります。えぐみのなる食感は「いごって」と言います。厚着をすると「あづぼって」し、寝起きは「はれぼって」顔になります。
『こ』 場所を表し、「隅っこ」や「端っこ」といい、ぬかるみは「ぐじゃっこ」と言います。さらに、小さいものに親愛を込めて、ビー玉を「玉っこ」と言います。「こ」は接頭語としても使われ、「こざっぱり」などは標準語ですが、「こったんね」は、満足しないことの他に、知恵の廻りが悪い人を指します。「こづまんね」は、興味が湧かないことです。

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