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地域を取り巻く様々な生活

畦畔で畦(あぜ)のこと。方言でなく、農業の専門用語である。農業の専門用語は、もとからある言葉に代えて、行政機関や農業教育機関が権威を高めるため、難しい言葉を用いることが多い。「ばっかんちょうこう」は「麦間中耕」であった。教育が行き届いていたから、農家の年寄りも当然のように使っていた。子どもながらに耳から聞いて、様々な農業用語を覚えた。「畦畔」もその一つである。

けいはん

感情を表すことば

「貫禄」の転訛か。身に備わった人格や重みのこと。「あんてはいい年してちっともけいろくねーんだから(あいつは、いい年齢になっても少しも重みがない)」という。人格や風采のこととともに、年齢にふさわしい判断力のことも指す。ただ、「けいろく」は年齢と関係なく、その人の置かれたポジションや意識によって大きく影響するのであろう。

けいろく

生活の基本 衣と食と住

「鰹節」でなく、「鯖節(さばぶし)」を使ったので、鉋(かんな)で削ると多く粉になった。値段の安い物であったからであろうか、文字どおり「削りっ粉(こ)」にとなっていた。それでも贅沢品の一つで、自家製の味噌に「けずりっこ」を入れたネギ味噌は格別で、温かい麦飯には良く合った。ネギ味噌を湯で溶いて、けずりっこを混ぜたただけの「コジキ汁」もうまかった。今、スーパーで買ってくるケズリッコはパックに入ったふわふわしていて、味も香りも昔のむかしの「けずりっ粉」ずいぶん違う。

けずりっこ

削り粉
感情を表すことば

「けち」に、「へたくそ」と同じように、相手を罵る際に語意を強めた「くそ」を付けたものもの。子どもたちのやり取りでしばしば出た言葉である。「俺にも半分くいよや(俺にも半分くれや)」と言われ、「やだ俺ら」と言われれば、「この、けちくそ」と言い返えされる。自分のけちを棚に上げて、他人のものが欲しくなる。よく使った言葉である。

けちくそ

けち糞
体の名称と病気やけが

しゃっくりのこと。子どもの頃にはしばしば「けっくり」がでた。原因は何か、心因性であったろうか。大きく息をして、吐き出した後、できるだけ我慢をする。何度か繰り返すと直った。それでもダメな時は、茶碗に箸を十字に置いてから一気に水を飲んで息を凝らすこともした。このまじないの効果はあったのだろうか。

けっくり

感情を表すことば

「卦体(けたい)」が転訛した「けた」になり、「くそ」が付き、さらに「悪い」が付いたものである。易の占いの結果のことであり、そこから「卦体糞」となって、気分が良くない、気に触るなどの意味となった。「全くけったくそわりーんだがら」となり、不愉快さを強調する。本来の占いの言葉が、どのようにして広まり、意味変化をしたか興味のなる言葉である。

けったくそわりー

卦体糞悪い
地域を取り巻く様々な生活

発動機の普及とともに、「ケッチン食う」という言葉が広まり、子どもたちに中にも広がった。発動機を始動する際に、弾み車に付いている取っ手持って回転をかけている時、圧縮比に負けて反対回転となって大きな衝撃を受ける。このことを「ケッチン食う」といった。後に知ったことだが、もともと英語の「ケッチング」という内燃機関の専門用語である。発動機の始動は難しく、圧縮比を調整をしながら、ケッチンを食わないような注意が必要であった。水冷の発動機は水が沸騰しているので、時々水を加えた。バネの動きからピストンの上下動も分かり、見ていて飽きなかった。人間関係でも思いも掛けず反動を食うと「けっちんくった」と言った。

けっちん

体の名称と病気やけが

臀部のこと。「しりっぺた」とも言ったが、いずれも語尾に「へた」が付く。「へた」は端のことだから、尻の端のことで、尻の左右の一番出っ張っている部分を指す。子どもの頃は、なぜか「けつっぺた」に吹き出物ができた。座ることにも困り、学校でも腰掛けに半分「けつっぺた」を浮かせて座っていた。衛生上の問題が大きかったろう。

けつっぺた

体の名称と病気やけが

尻の穴。「めど」は「針めど」などと同じで細い穴のことを指す。「けつめど」は貫通してはいないが、針穴と同じように狭い穴のことであろう。「けつ」が「尻(しり)」であることは、正月のカルタに「頭隠して尻隠さず」があったから、子どもの頃から分かっていた。それでも「しりのあな」でなく「けつめど」でないと落ち着かない。

けつめど

生活の基本 衣と食と住

今はトタン葺きになり、家の中には薪で焚く竃(かまど)や風呂もなくなり、煙出しの必要はなくなった。以前は煙草を作っていたので、乾燥用に火を焚いたから、ぐし(棟)の上には煙出しが付いていた。ただ、冬場になると、風が吹き込み、時には雪が吹き込んだり、木の葉が舞うこともあった。今は煙出しのある家も珍しくなってしまった。

けむだし

煙出し
子どもの世界と遊び

片足跳び。「けんけんとび」とも。女の子たちは「けんけんぱっ」と言って地面に丸を書いて遊んでいたが、どんな遊びであったか思い出せない。男の子はやっていないのであろう。

けんけん

挨拶語 敬語 つなぐ言葉など

「そだごと(そんなこと)あったんけ」とか、「予定はいつだったけ」と、相手に確認をしたり疑問を投げ掛ける時に使う。「け」の代わりの「か」では心が籠もらない。「そうげ」とうなずけば相手の心にしみこむようだし、「そうげや」と疑問を呈しても嫌みがない。「か」に比べて口をあまり開かない「け」や「げ」は、感情を直接見せないという心の暖かさを伝える力を持っている。

け(げ)

地域を取り巻く様々な生活

糞尿のこと。田んぼの脇にある下肥を貯める場所を「げすだめ」と言っていた。人の中でも「げす」というえば、最低な人という意味になる。げすは「下衆」から来ていると思われるが、どこで人糞の関わるか。人糞は汚い物でありながら農家にとっては欠かせない肥料であった。

げす

子どもの世界と遊び

下駄にスケートの金具を取り付けたもの。北斜面の田んぼに水を張って天然のスケートリンクを作った。すべて子どもたちの管理であった。星空を見上げながら、箒できれいに掃いて、製氷作業をした。作業に参加したものだけがリンクを利用できた。学校が終わると足袋をはいて、紐で縛って滑る下駄スケートに熱中した。カーブを曲がる時のステップ「ちどり」も出来るようになり、バックもできた。

げたすけーと

下駄スケート
生活の基本 衣と食と住

言葉の終わりに付けて、疑問の意味を表す終助詞的用法。「そうげや(そうかな)」といえば、十分納得がいかないことになる。反対に「そうげや(そうなんだ)」と、驚きをもって受容した時にも使う。二つの違いはイントネーションで十分理解できる。

げや

生活の基本 衣と食と住

母屋や納屋に差し掛けた片流れの建物。農家には収納するものが多かったので、どの家にも「下屋」があった。少しぐらい雨が吹き込んでも差し支えのないものを収納しておいた。稲を架ける「はって」の杭や竹竿も「下屋」の下に保管したし、囲炉裏や竃(かまど)で使う薪も「下屋」に積んでおいた。

げや

下屋
動物や植物との関わり

とんぼ類全体をいうが、トンボの代表はオニヤンマであったから、単に「げんざんぼ」と言った時はオニヤンマのことを指す。開け放しの家の中に入ってきて蠅を捕まえていた。オニヤンマを追いかけていくと素通しガラスの所にぶつかって、行き場を失っている時に捉まえることが出来た。「げんざんぼ」の由来は、修験者の鋭い目つきから来ているという。トンボの王様である。なお、とんぼ鉛筆のローマ字表記は「TOMBOW」で、日本の古い発音である。

げんざんぼ

挨拶語 敬語 つなぐ言葉など

「けれど」との意味で、相手の言葉に対して反論するときに使う。「きっど」と同じである。「そだげんと、俺(おら)違うど思うんだ(それはそうだが、俺は違うと思うんだ)」と使う。ずいぶん使用した言葉だが、今の若い人たちは使うことがなくなった。

げんと

体の名称と病気やけが

害は連母音gaiであるから母音が一つ脱落し、「ゲー」となる。体に悪いことをいう。「そうだにいっぺんに食ったら体にげいだ(そんなに1度に食べては体によくない)」と言われた。今は物が豊富になり、何でも欲しい物が「げい」になるほど飲み食いできるばかりに、血糖値を下げる薬を常用している。

げー

冠婚葬祭と人々の繋がり

標準語の「外聞」が転訛したもので、他人の評価や噂などのこと。「げーぶわり」と連語として使われる。山間の狭い地域では隣近所では評価を気にしなくてはならない。そのため、何事につけ「げーぶわりーから(人聞きが悪いから)」と様々なことで行動に制約が加えら、その結果規範意識が醸成された。世間体を気にし過ぎるのはいかがと思うが、昨今はあまりにも無頓着な風潮になっている。子供たちが社会性を身につけるために、「げーぶ(世間体)」をもう少し考えさせた方がいいのではないかと思う。

げーぶ(ん)

外聞
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