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冠婚葬祭と人々の繋がり

広辞苑には「削り取る、かすめ取る」とある。八溝の山間の畑作地は耕地が狭く、少しでも面積を増やしたいと誰もが思っている。卯木(うつぎ)は木障(こさ)にならないうえ、根元を掘られてもしゃっていかない(移動しない)ので地境に植えておいた。それでも毎年一鍬ずつ剥って境界を曲げていく人がいる。「へずる」は、ずるをして物を手に入れること全体にもいうが、山村では一番「へずられ」て応えるのは田畑であった。今は耕作放棄地になっているが、それでも年ごとに「へずられ」ていくのを見るのは、何とも不愉快である。

へずる

剥る
挨拶語 敬語 つなぐ言葉など

よく考えないで、生半可なこと。「へた」は不器用なという意味でなく、「へたをすると」の意味、「げ」は他の言葉について「いかにも〜のように」という接尾語である。「へだげに(へたげに)しゃべったくれ、後でひでめつくかんな(ひどい思いをするからな)」と、良くないことを予想した使い方をする。

へだげに

下手げに
子どもの世界と遊び

「下手」に接尾語風に「かす」が付いているので、この上なく下手なこと。野球でエラーをすれば、「へだっかす」と言われる。日常的にさまざまな場面で使った。罵り言葉がストレートに使われていた時代であったから、この程度は「ドンマイ」で、受け止める方もそれほど気に留めていなかった。

へだっかす

下手っ粕
感情を表すことば

広辞苑には「へったくれ」は、取るに足りないものの罵り言葉とある。江戸言葉が八溝に伝わり、「くそ」が付いてさらに語気を強める言葉になったものか。文末には否定の語がついて「へったぐれもくそもねー」と、何事があっても相手に反論を許さない強い表現である。

へったぐれもくそもねー

動物や植物との関わり

多くはカメムシのこととしているが、「へっぷりむし」はカメムシではない。カメムシは臭うけれど、屁はしない。逃げる時に屁のような悪臭を放つ昆虫がいた。これが「へっぷりむし」である。正しい名前はなんというのだろうか。ゴミムシの仲間であろう。ごみ山の中に棲息していた。

へっぷりむし

屁っぷり虫
子どもの世界と遊び

剥がすに接頭語「ひっ」が付き、強引に引きはがすこと。発音は「ひ」でなく「へ」であった。川の中の重い石を引きはがす時は、「石へっぺがしたら、でかいカジカメいだよ」となる。カジカをヤスで突いたことの喜びは格別である。また、傷が治りかけてようやくかさぶたが出来た時に、我慢が出来ず「へっぺがして」しまって、また出血し、治りがますます遅くなることもあった。

へっぺがす

ひっ剥がす
感情を表すことば

人柄についても話の内容についても「無益である」「でたらめである」という意味で使う。「そだへでなしかだって(語って)いんじゃねよ(そんなつまらないことしゃべっているんじゃないよ)」と言われるし、馬鹿なことをしていると、「このへでなし」と怒鳴られる。「へでなし」の意味の範囲が広く、軽い冗談も「へでなし」に含まれる。

へでなし

動物や植物との関わり

「蛇の枕」のこと。「マムシグサ」とも言った。テンナンショウの仲間で、茎がマムシに似ていることからの命名。便所のウジ退治のため、根を掘ってきて投げ入れておいた。実際に根は有毒であり、効果があった。花も独特の仏焔苞(ぶつえんほう)で、山の日陰にあることから、模様を含めて気持ちの良いものではなかった。秋になって結実する、真っ赤なつぶつぶの三は、花名の蛇の枕にふさわしい形状の色彩である。

へびのまくら

感情を表すことば

年長者や自分より強い人にぺこぺこすること。「やだらとへーこらすんだがら(やたらとご機嫌取りをするんだから)」と、頭を上下に振る「米搗(つ)きバッタみでだ(みたいだ)」と軽蔑される。「へーこら」は人格の卑しさと関わる言葉である。

へーこら

感情を表すことば

扁平なこと。厚みがなく平らなことのいみ。豆餅はかまぼこと同じように半月状に作るが、白餅は「べだっちく」均等に熨していく。顔も「べだっちー」人がいた。様々な場面で使ったが、今は全く使うことがない。

べだっちー

生活の基本 衣と食と住

コンニャクの味噌おでん。味噌をべったりと付けるからか。コンニャクの産地であったので、畑から掘り起こした芋を摺り下ろし、重曹であく抜きをして、大きな鍋で茹でて水に曝して大量に作った。刺身コンニャク、野菜との煮付け、カルタほどの大きさに切って竹串に刺して甘い味噌を付けて「べったらこんやく」など、様々な食べ方があった。子どもたちにとって「べったらコンニャク」は美味しいものでなく、むしろ砂糖味の味噌がうれしかった。懐かしい八溝の味である。

べったらこんにゃく

生活の基本 衣と食と住

標準語としても使われる。靴紐が直接足の甲に当たらないようにした舌の形をしたもので、メーカーの名前が入っている部分。英語のtangの和訳。ゴムの短靴からから紐靴になって「べろ」という言葉が急速に広がった。急いで靴を突っ掛けて、かかとを踏んづけ、さらには「べろ」を折り曲げて履くことがしばしばであった。

べろ

生活の基本 衣と食と住

普段の弁当箱より大きいもので、飯やおかずを入れたお鉢のことだが、実際に畔まで持って行ったのは重箱であった。「弁当鉢」という言葉だけが残っていたのであろう。田植えの時のお昼は、三重の重箱に煮染めやお新香を入れて、家族以外の「結い」をしてくれている人と一緒に食べた。ニシンとゼンマイなどのお煮染めは八溝の味そのものである。

べんとばち

弁当鉢
子どもの世界と遊び

垢(あか)や涎(よだれ)、鼻汁などが固まって光っている状態。半纏(はんてん)の袖口は青っ洟を拭いたので「ぺかぺか」であった。ハンカチを持っていなかったから、教室のカーテンで手を拭いた。30年代になると「ハンカチ検査」があり、洟を垂らしている子も少なくなったから、「ぺかぺか」という言葉もなくなった。

ぺかぺか

感情を表すことば

今まで元気であったものが急に元気をなくした状態。「ずいぶんぺっそっとしてんじゃねが(ずいぶんしょげているんじゃないか)」と気遣われる。勢いのあった家が退潮して傾くことも「ぺそっとなる」と言った。

ぺそっと

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