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冠婚葬祭と人々の繋がり

労働交換で、先にやってもらって、相手方にその分を返すことが「結い返し」である。金銭の発生はしない仕組みである。どの家とも組むのでなく、結いをし合う家は決まっていた。ただ、我が家は兼業農家であったので、「結い返し」でなく手間賃で返した。

ゆいがえし

結い返し
地域を取り巻く様々な生活

20年代から30年代にかけて、集落の中心にあった害虫を集める装置。青い光源とその下の石油を入れたブリキの大きな器があった。持ち回りの誘蛾灯当番があり、毎日水を交換し、新しく石油を薄く浮かべる。石油がどのような役割をしていたかは知らないままである。交換に行くと害虫がたくさん入っていて、まだ生きていたカブトムシやオニムシ(クワガタ)もいたが、特に関心はなかった。その後農薬が普及し誘蛾灯の役割も終えた。しかし、農薬のために、害虫は減ったが、蝉なども少なくなり、川の魚も急激に減ってしまった。

ゆうがとう

誘蛾灯
動物や植物との関わり

井上靖の小説『しろばんば』のタイトルは、「ゆきっぷりむし」の伊豆地方の方言である。冬が近づくと白い綿のようなものを身に纏い、風に乗って飛んでくる雪虫のこと。冬の到来を一足先に告げることから「ゆきっぷりむし」と呼ばれた。正しくはワタアブラムシの仲間であるという。子どもの頃はずいぶん見る機会があったが、今はあまり見なくなった。

ゆきっぷりむし

雪降り虫
感情を表すことば

「ゆっくり」の語尾が変化したもので、同じように「そっくら」、「むっつら」と言った。いずれも年寄語になりつつある。「そだに急がねで、ゆっくらしてぎなせよ」とお茶を進める。若者世代でも驚いた時には「びっくらこいだな」という。

ゆっくら

冠婚葬祭と人々の繋がり

きつく縛ること。同じ意味で「しっちばる」とも使う。「山羊め(やぎめ)が逃げねよに、よぐ(良く)ゆっちばっとげ」と言われた。農家では縛る作業がさまざまな場面で求められたので、子どもながらに縛り方を身に付けた。緩まないようにした反面、ほどけなくなっては仕事の効率が劣る。解きやすさも大切で、新たな草を求めて移動するので、ヤギの紐を杭に縛るのは「もやい結び」が最適で、すぐに解けた。

ゆっちばる

結い縛る
地域を取り巻く様々な生活

負んぶ紐のこと。「結う」と「帯」が合わさったものだろうが、どのような音韻変化をしたか。今の負んぶ紐は、赤ん坊の背中全体がカバーされ、首が安定する支えも付いる。以前の帯は一本の帯であった。背中の子どもは、時に片方の腕が外れてしまったり、首が折れてしまうのではないかと思うほど、後ろに曲がっていた。母親は、農作業や炊事で両手を使う必要があるから、背に負ぶう必要があった。また、兄姉が自分の弟妹を負ぶうことも珍しくなく、背丈があまり変わらないから、負ぶっている子の足が自分の膝の後ろに当たることもあった。こうして体温を感じ合う中で、肉親の絆が生まれたのであろう。「ゆつこび」も4人目の末子(ばっし:八溝ではばっち)の頃にはひどく痛んでしまっていた。

ゆつこび

生活の基本 衣と食と住

お風呂に用いる手拭いで、野良で使う汗拭きとは区別し、お風呂専用であった。家族全体で共有し、湯上がりにも兼用した。タオルが一般化したのは40年代になってからで、「湯上がり」という大判のタオルを修学旅行に持参する生徒が出て来た時には、「湯手拭い」で育ったものとしては驚きであった。登山の帰りの入浴で湯手拭いを使っているのは私一人である。もちろん「湯上がり」も使わない。

ゆてぬぐい

湯手拭い
挨拶語 敬語 つなぐ言葉など

言わないことではないの転訛で「それみろ、ゆわねごっちゃね(注意していたとおりだろう)」という叱り言葉である。ただ、標準語の二重否定的な「言わないことではない」とは違った。言うは「いう」でなく「ゆう」と発音するのが普通で、言った言わないは「ゆったゆわない」である。イ段よりもウ段の方が発音しやすかった。

ゆわねごっちゃね

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