地域を取り巻く様々な生活
単に杭でなく、棒が付き、より長さや強度が強調される。稲を架ける「はって」の杭は背丈より長く、丈夫なものでなくてはならない。脱穀が終われば役目が終わり、翌年まで湿気の少ない縁の下に格納される。何十年も使い続けたものである。
くいんぼ
杭棒
子どもの世界と遊び
5寸釘を地面に打ち付けることで相手の釘を倒す遊び。中心の点から交互に釘を打ち付けたところに蜘蛛の巣状に直線に引き、相手の進路を邪魔するものもあったし、単に相手の釘を倒すものもあった。危険な遊びと言うことから、学校から禁止されて下火になった。それでも、シンプルであっただけに興奮する遊びであったので、密かに遊びを続けた。
くぎぶち
釘打ち
体の名称と病気やけが
「かさっぽ」ともいう。吹き出もののこと。直り掛ける時の「かさぶた」のことである。「くさ」は「かさ」の転訛であろう。不衛生のうえ、体質からであろうか、しばしば吹き出物が出来て、ドクダミの葉を炙ったものを貼ってもらった。効果のほどは分からない。今でも頭に吹き出物が出来て皮膚科通いをしている。
くさっぽ
瘡っぽ
生活の基本 衣と食と住
多く「茅屋根」と言われているが、実際は藁が中心で、茅を混ぜる「藁葺き」屋根であった。山には「茅場」があり、茅の刈り取りもした。藁が中心になったのは、麦わらは毎年の収穫後に納屋に保管することで、材料費がただだったことによるだろうか。古くなるとスズメの巣となり、麦わらが引っ張り出されてしまうことが珍しくなかった。さらに藁を支える横棒の「おしぼこ」が露出すると、いかにも「びーだれた(おちぶれた)」感じがした。屋根に使われる藁は稻藁でなく、撥水性のある麦わらであった。麦わらは畑の敷藁にも使われた。ストローベリーの語源でもある。茅手(屋根葺き職人)の不足、屋根材の茅が入手困難となり、「草屋根」が一番コスト高となり、今はトタンに葺き替えた。
くさやね
草屋根
子どもの世界と遊び
靴紐を結ぶ時に蝶々結びができず、解きにくい輪のない「糞結び」になってしまい、さらには、葬式と同じように「縦結び」になってしまうこともしばしばであった。後々、紐の結び方は知能指数に関係するのではないかと思うことがあった。本格的な登山をするようになってザイルワークが重要になったが、いつもパートナーをイライラさせた。なぜかよその人に比べてキンク(ねじれ)も多かった。
くそむすび
糞結び
感情を表すことば
「畜生」などとの語感と同じで、話のはじめに使う発語の働きがあった。相手に向けることもあるが、ことが順調でない時には「くたばれ」と言って、自分自身に歯がゆさをぶつけることがある。この言葉は、かつてはしばしば使って、他人を責めたり、自分を励ましたりしたが、今は、標準語的な、体力がなくなったり死んだりする時の「くたばる」ということにしか使わない。
くたばれ
地域を取り巻く様々な生活
細かく切ることだが、特に薪を細かく切ることをいう。刃物を使うから「くだぎる」のは大人の仕事であった。杉や桧の伐採は専門の「きーきり(木伐り)」がやるが、太い枝や材木にならない「うらっぺ(先端)」は薪として自由に使うことになっていた。背負梯子(しょいはしご)で背負い出せる長さに、鉈や鋸で「くだぎって」運び出す。家に来て太い丸太を斧(よき)で割るのも「くだぎる」ことである。
くだぎる
冠婚葬祭と人々の繋がり
結納のことで、樽入れとも言う。集落にも若い未婚の女性が多く、結婚話も稀ではなかった。そんな時耳にするのが「くちがため」で、結納という言葉は聞かなかった。我が家でも、小学生まで同居していた叔父と叔母がいたので、「口固め」の日は仲人を交えて小宴があった。詳しくはどのように行われたか記憶がない。もちろん小学生は宴に参加していない。
くちがため
口固め
動物や植物との関わり
ヘビのことを古くは「くちなわ」と言った。広辞苑には「朽ちた縄に似ていることから」とある。しかし、マムシの色は赤みがかっていることから、朽ちた縄には見えない。「はび」は食うことの古語で、人に食いつくヘビを意味としている。冬眠から冷めたマムシは沢筋に集まり、夏には涼しい尾根に上がってくる。ちょうど山林の下草刈りをする時期であり、最も注意をしなくてはならない。血清も無い時代には絶命する人もいた。一方で、強精剤であることから、鎌で頭を押さえつけ、殺さないように持ち帰り、一升瓶に水を入れて数日間生かしておいて腹の中のものをきれいにして焼酎漬けにした。また、そのまま皮をむいて囲炉裏で焼いて食べることもあった。囲炉裏の上にある藁でできた「弁慶」に刺しておいて燻製にもしたので、否応なしに「くちはび」を毎日見ることになった。
くちはび
子どもの世界と遊び
おしゃべりのこと。体が「まめ」であれば勤勉で褒められたことになるが、「くちまめ」は褒められない。「あそごの息子はこまっちゃぐれ(生意気)で口まめなんだがら」と言われていたに違いない。家では口数が少ないのに、他所に行くと口数が多くなるのはどうしてか。今も同じである。
くちまめ
生活の基本 衣と食と住
「食い潰す」が語源であろう。ただし家を没落させる意味では使わなかった。固いものを噛みつぶすことに使う。「くっちゃぶす」とも言った。「落花生(らっかせ)の皮くっちゃせねー」と、噛みつぶせなかったのは、虫歯に原因があった。
くっちゃす
食っちゃす
農家を支える日々のなりわい
しゃべることに強意の接頭語が付いたもので、饒舌であることへの非難が込められた言葉である。「いつまでもくっちゃべってねーで、ごっごと仕事やれ(いつまでもしゃべってないで、さっさと仕事やれ)」と急かされた。広く使われていたが、世代が代わって使われなくなった言葉である。
くっちゃべる
生活の基本 衣と食と住
食い散らかすこと。お膳の上の食べ物を、どれもこれも汚く手を付けると「食っ散らか」しと叱られる。上品さに欠けることである。ニワトリは餌を脚で「かっちらか(搔き散らか)」して、嘴(くちばし)で「くっちらか」した。
くっちらかす
食っ散らかす
感情を表すことば
標準語の「くどい」の転訛。標準語の「しつこい」とともに、「難解な」という意味で使う。いつまでも言い訳していると「くでー」と言われる。理屈っぽいことである。「今日の試験はくどかったな」という時は、難しかったことの意味である。
くでー
感情を表すことば
異性を口説くことでなく、小言や愚痴のことで、さらにはお叱りのことにもなる。学校での保護者懇談の後、「先生に、勉強しねで困ったと言われっちゃた」と、母親に散々ぱら「口説か」れた。同じことの繰り返しで話しが長い。ただ、何度「口説か」れても、「カエルにしょんべん(小便)」でケロッとしていた。
くどく
口説く
子どもの世界と遊び
首つりのこと。子どもの頃、首つり自殺した話は聞いたことがなかった。死ぬほどでないが、遊んでいる間に、藤の蔦、蜘蛛の巣などが絡まると「くびっかかり」することになる。乱暴な遊びが多かったから、しばしば「くびっかかり」をすることになって、首ったまににミミズ腫れを作ることもあった。
くびっかかり
首掛り
動物や植物との関わり
クモの類はすべて「くぼ」であった。初秋になって朝の気温が下がり、露がたくさん降りるころになると、蜘蛛の巣が朝日に当たり宝石のように輝いて見える。特にきれいな円形に作られたコガネグモの巣は、外側に行くに従って目が粗くなり、途中にぎざぎざの白い線もあり、造形的にも美しい。藪など歩いていて顔に掛ると糸が粘り付く。巣の真ん中には大きな蝉が掛っていることもあった。巣に近づくと、巣全体を揺すって威嚇してくる。木の枝のざくまた(Y字)に巣ごと捕って別なものと戦わせた。ジョロウグモと似ているが、こちらは巣の形はコガネグモより粗雑であり、体も貧弱であった。
くぼ
蜘蛛
子どもの世界と遊び
仲間はずれのこと。今でこそいじめの問題が取り上げられ、人権教育もしているが、当時は「くみぬかし」のいじめも多かったように思う。自分も仲間はずれにされないように、誰かを標的にして仲間はずれにするという心理が働いたからである。
くみぬがし
組抜かし
感情を表すことば
「かっくらす」、「ぶっくらす」、「はっくらす」など、それぞれ接頭語を付けて強く殴ること。乱暴な言葉であるが、日常の中でしばしば使われた。実際に殴られなくても、「こんだそだに悪さしてしたっくれ、ぶっくらせっから(今度そんなに悪いことしたら、ぶちのめすから)」と脅かされる。地域の言葉に乱暴な表現が多かったので、自分が格別そういう家庭環境の中で育ったのではないのに、身に浸みてよく覚えている。
くらす
食らわす
感情を表すことば
差し支えないないこと。婆ちゃん同士で「なんだって長っ尻(ちり)して悪がんしたね(なんだって長居をして悪かったね)」と別れの挨拶をすれば、「なんでくらねよ。まだ来とこんなんしょ(いやいや差し支えないよ。又来てください)」と言う会話があった。婆ちゃんが亡くれてからは聞かれなくなった言葉である。
くらね
地域を取り巻く様々な生活
脱穀するときに使うもので、棒の先に回転するものを着け、地面に水平に打ち付けるようにした農具。大豆や小豆をこなす(鞘から外す)時に、筵(むしろ)に広げて、叩くと実がはじける。軽作業であったが時間が掛る根気の要る仕事であった。多くは女性の仕事であり、我が家では婆ちゃんが担っていた。誰が考えて、どのように広がっていったのか、地域によって少しずつ構造が違う。生産物の違いからであろう。足踏み脱穀機が普及するまでは普通に使われていた。
くるりぼう
農家を支える日々のなりわい
「与えること」の意味広く使われた。池に鯉がいたので、「餌呉れ」たし、馬にも餌を呉れた。また、「肥料くれっか」と言って追肥をした。さらに「じでんし ゃ(自転車)のチェーンに油くれっか」と、発動機か ら抜いた廃油を「くれ」てやった。
くれる
挨拶語 敬語 つなぐ言葉など
自分に恩恵を与えて欲しい時、また、物をもらう時の依頼に使う。目上の人に依頼する時は、敬意の「お」を付けて「おくれ」となり、変化して「おごれ」という言葉を使った。「忙しいんで、少し手伝ってくろや」とお願いする。「俺にもくろや」と、物をねだる。様々な場面で使った便利な言葉である。
くろ
下ろ
地域を取り巻く様々な生活
杉や桧、松などの常緑樹を指す。古来、黒と緑は混同され、「緑なす黒髪」ともいう。特の濃い緑の杉などは黒の範疇であったのであろう。戦後の材木ブームに乗って、雑木山を黒木山に転換したが、外材に押され、さらに住宅の建築材の変化により、八溝の黒木は適期を過ぎても伐採されない。そのため、黒木が伸びて、季節の変化も感じられなくなり、谷間の村が狭く感じるようになってしまった。
くろき
黒木
体の名称と病気やけが
打ち身などで黒く腫れ上がること。激しい遊びが多く、そのうえお調子者であったからやたらとケガをした。体のあちこちを打撲し、しばしば「くろなじみ」を作った。子どもにとって、この程度は治療の対象にはならなかった。
くろなじみ
黒なじみ
地域を取り巻く様々な生活
「のっぽ」は火山灰などが厚く溜まった土のこと。八溝山地は中生層で粘板岩や頁岩(けつがん:堆積岩の一種)の基層の上に薄い砂礫が堆積した地層で、水はけはよいが地味は痩せている。そういう中で所々に関東ロームの火山灰が溜まった所がある。「黒のっぽ」である。酸性であるから石灰(いしばい)を巻いて中和する必要があった。
くろのっぽ
黒のっぽ
生活の基本 衣と食と住
黒豆ではない。田の畦に蒔いた大豆を主とする豆類。平地の少ない八溝では、田の畦(くろ)まで利用した。田植えが終わった畔に、棒で穴を開けて大豆を二粒づつ蒔いた。草に負けないように「よせ刈り」をして養生した。途中で施肥することはなかったが、根粒バクテリアの手助けでそれなりの収量があった。庭先に立て掛けて乾燥させて、「くるりぼー」で鞘から外した。冬の「呉汁」となった。今は、「くろまめ」を作る人はいなくなった。よせ刈りも手刈りから草刈り機になって、「くろまめ」を作っても面倒がみきれない。
くろまめ
畔豆
動物や植物との関わり
桑の実のこと。河川敷に大き山桑の木があり、梅雨明けが近づくと、どどめ色(黒紫色)した桑の実がたくさんなった。川遊びの帰りには、手も口もどどめ色になるほど食べた。童謡のように「小籠につむ」ことはなかった。河川改修で桑の古木も伐採されてしまった。懐かしい味である。
くわぐみ
桑茱萸
体の名称と病気やけが
飲み込まず吐き出すこと。饐(す)えた味がしたりし たときに、意識して吐き出すのであって、無意識に出 る「げろ(反吐)」とは違う。どうしても噛み切れな い刺身の筋などは「くんだす」ことがあり、年ととも にくん出すものが多くなった。
くんだす
食ん出す
生活の基本 衣と食と住
「くもち」は苦を持つことから忌まれ、暮れの29日の餅搗きはしなかった。さらに大晦日に搗く「一夜餅」も良くないとされていた。暮れのぎりぎりになって正月準備をいさめることとも関係するであろう。28日は「八日餅」として嫌われ、27日が良いとされた。
くんちもち
九餅
感情を表すことば
押すことでも引くことを含めて、突然大きな力が加わること。標準語の「ぐいと」に近いが、「ぐいら」の方が突然感が強い。「あだま(頭)の毛、ぐいら引っ張られっちゃった」と、喧嘩がおっぱじまる。育った環境の中には、今よりも擬態語や擬音語が多くあったように思う。
ぐいら
挨拶語 敬語 つなぐ言葉など
「ごと」と同じで、「一緒に全部」という意味である。「骨ぐし食べる」は骨ごと食べることであり、「お膳ぐしひっくり返しちゃった」となれば、お膳の上の茶碗類も全部ひっくり返ったことになる。普通に使っていたが、今は聞くことがない。
ぐし
生活の基本 衣と食と住
屋根の棟のこと。雨水の流れを良くして藁の腐れを防ぐため、竹で抑えるなどしてきれいに葺き上げる。最後に、東西の端に屋号を入れたり、火防のために水の字を切り込む。ぐしを葺き終えると近所の人を招いて撒き餅を撒いてお祝いをする。当地方は茅葺きでなく藁葺きであったから、15年もすると新たに葺き替えをしなくてはならない。子どものころに1度は経験することができた。泊まり込みでやってきた会津茅手(かやで)さんの美事な仕事ぶりを見ることが出来た。
ぐし
農家を支える日々のなりわい
泥濘(ぬかるみ)のこと。「ぐじゃぐじゃ」なという状態に、小さいという意味の接尾語「こ」が付いたもの。舗装が全く無かった時代には雨が降れば、至る所に水溜まりができた。学校帰りにはゴム草履でわざわざぐじゃこ入った。八溝の地質が砂礫であったので、ぬかるみに足を取られるようなことはなかったし、家に上がるときは、汚れた足を反対側のズボンの裾で拭けばそれで済んだ。
ぐじゃっこ
農家を支える日々のなりわい
「ぐるっと」の転訛であろう。遊びの際、地面に円を「ぐりっと」と一周書くことになる。順番も「ぐりっと」一回りして戻ってくる。稻藁を縄で縛るのも「ぐりっと」し一回りして縛ることになる。
ぐりっと
冠婚葬祭と人々の繋がり
周囲、近所隣のこと。「家のぐるわの木の葉きれいに掃いとけ」と言う時は建物の回りである。「ぐるわがうるせ人ばっかりだから(周囲の家がうるさい人ばっかりだから)」と周囲の人の目を気にする。狭い集落では、「げいぶ(外聞)わりー(悪い)」からと、「ぐるわ」を気にした。
ぐるわ(ぐるり)