46 家にいた生き物
犬猫などのペットはいませんでしたが、日々多くの生き物とともに関わりながらの生活でした。その中でも特に家の周辺で身近に接した生き物たちがいました。
『つばぐらめ』 ツバクラはツバメの古称で、ツバグラメと濁音化していました。座敷の梁に巣を作っていましたから、障子の角には紙を貼らずに自由に出入り出来るようにしてありました。桜の散った頃になると番(つがい)でやって来て、しばらく近くの電線に止まり、安全を確認すると家の中に入ってきます。やがて雛が孵ると親鳥は忙しく出入りします。毎年同じ光景が見られましたが、空き家になった年にも障子に穴を開けておいたのに、とうとう家には来なくなりました。カラスやヘビなどから守ってくれる人がいないので安全な場所でなくなったのです。空き家が多くなり、ツバグラメの数も減っています。
『おがまがえる』 ガマガエルに敬称を付けてオガマガエルと言っていました。カエルでありながら、夏になるとほとんど水の中の生活をしないで、湿気のある薄暗い縁の下に住み着き、害虫を食べたりしていたので大事にされていました。春になると、池の中に紐状のゼリーのような卵を生み、オタマジャクシがカエルになりますが、どこで越冬していたのでしょうか。
『あおだいしょう』 家の中にはネズミが住み着き、時には天井裏を群れで駆け回っている音がしました。そのネズミを捕らえて腹の真ん中を膨らませたアオダイショウが梁から畳の上に落ちてくることがありました。ヘビの仲間でも道端で見つけたヤマガチ(ヤマカガシ)やシマヘビは棒で叩いたり石を投げつけたりしましたが、屋敷に住むアオダイショウは縁起が良いものとして大事にされていました。ただ、ニワトリ小屋に入り卵を飲み込んで、親鳥たちが大騒ぎをすることもありました。その時は長い棒で追い立てました。
『ちんちめ』 スズメのことです。屋根が藁葺きでしたから、スズメたちが藁を引き抜いて巣を作りました。初夏には屋根裏から雛の声がして賑やかになります。夏から秋には庭で脱穀や穀物の選別をしましたから、油断をするとスズメたちの群れが筵の上の穀物をついばむので、農家にとっては迷惑な存在でした。雪の日、餌を撒いておびき寄せて紐を引くと篩(ふるい)が落ちるようにして捕まえましたが、食べた記憶はありません。ただ捕ることが楽しかったのです。昔話にも出てくることもあって、子どもたちにとって一番身近な小鳥たちでした。空き家が多くなり、藁屋根がなくなって、スズメの住環境は悪化しています。
『あがはら』 イモリのことです。小さな沢の扇状地の扇端にある屋敷は湧水が豊富で、泉水が造られ、鯉の他にアカハラが棲み着いていました。人が近づくと、赤い腹を反転するようにして石の間に隠れます。色が特徴的だったのでアカハラと呼んでいましたが、色や形から子どもたちの捕獲の対象にはなりませんでした。アカハラの他に家の中にはヤモリが棲息していました。こちらは爬虫類ですから水とは無縁で、害虫を補食する「家守」として扱われ、厄介者ではありませんでした。ただ、どちらも同じものだとの認識でした。