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45 八溝の生き物たち

動植物の名称は地域限定も多く、その名称が経済や文化の交流範囲と共通すると言われます。地域独特の古称もありますし、外部から入って転訛したものもあります。
『げんざんぼ』  験者(げんざ:修験者のこと)は、修行中ですから痩せて眼だけが目立っていました。オニヤンマの目玉が験者と共通していることから「げんざ」に親愛の坊が付いて「げんざんぼ」となりました。トンボ鉛筆の表記の「TOMBOW」は、古語辞書には「とんばう」とあるので、古い時代の発音を残したものです。また、豊作のシンボルとして「げんざんぼ」は「ヤンマー」という会社名にもなりました。トンボは古事記に「あきつ」とあり、「秋津島」という日本の古名とも関わりがあり、小さいながら歴史的な存在です。「げんざんぼ」は由緒ある名称ですが、今では死語となりました。
『むじな』 『広辞苑』には①アナグマの異称 ②混同してタヌキをムジナと呼ぶとあり、さらに「同じ穴の狢(むじな)」の欄には「一見別に見えても実は同類であること」とあります。県内でこの曖昧さが原因で、猟師がタヌキを捕獲して狩猟法違反に問われ、最高裁まで争わた事件が起こりました。判決は、猟師にはタヌキを捕獲したという認識がなかったことから無罪となりました。八溝にも「ムジナ」だけで「タヌキ」はいませんでした。中禅寺湖畔の地名狸窪は「むじなくぼ」と読むので、日光も八溝と同じ意味で使っていたのでしょう。ちなみに豹(ヒョウ)などの漢字は「むじな偏」で括られますから、言葉としては生きています。今は、方言を理由に狸を捕獲してムジナという言い訳は出来ないでしょう。
『ほろすけ』 フクロウのことで、語源は、羽が汚いので「ぼろすけ」という説があります。夜行性で姿を見たことがないので不気味さもひとしおでした。年に何度か、煙草収納所の倉庫で映画が掛かりました。映画が終わって真っ暗な2キロの夜道を帰る時、「鞍馬天狗」や「笛吹童子」の恐ろしい場面が蘇り、列の最後になるのが嫌で、真ん中に入ろうとして小走りになります。そんな時にほろすけが「ほーほー」と鳴き出すと夜道の怖さが一層増してきました。今でも映画でおっかない(怖い)場面を見るとほろすけ体験が蘇ります。
『しっとど』 スズメだけでなく小鳥全体のことを「ちんちめ」といいました。スズメの次に身近な「ちんちめ」は「一筆啓上仕候(つかまつりそうろう)」とさえずるという「しっとど(ホオジロ:頰白)」でした。冬になると餌を求めて屋敷の周りに群れをなしてやって来ます。生き物であれば何でも捕まえたくなり、「しっとど」もその対象で、篠の弾性を利用し、稲穂を引っ張ると首が絞まる「じょんこ」を仕掛けました。今は法律違反になり、先輩から伝えられた技法も名前も忘れられ、それとともに生き物への関心も薄れてしまっています。観察会だけでは分からない「ちんちめ」の生態を知って捕獲しました。「うさぎ追いし彼の山」の時代は遙か彼方です。

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