top of page

43 役立つ樹木

身近な場所の植物について、明治20年代に生まれの祖父母からさまざまな知識を伝授され、有用か有害かの識別、神事に使う樹木などを覚えました。
『のでんぼ』 ヌルデのこと。炭焼きで伐採した山のパイオニアプラントで、秋一番に紅葉し、メジロ捕りの鳥餅を巻くのに使いました。細長く真っ直ぐに立ち、木肌がザラザラしているので、鳥餅を巻き取る時に粘つきません。また、「孕み箸(はらみばし)」として、子孫繁栄のため真ん中を膨らませ、さらに神様と人とが共食出来るように両端を細くし、正月の祝い膳として神前に供えます。ただ、漆の仲間ですから、時にかぶれることもありました。
『あきび』 アケビの転訛で、『広辞苑』では語源を「開け実」としています。庭の梅の木に太い弦が絡みつき、秋には毎年たくさんの実を着けていました。そろそろ皮が割れて食べ頃だと期待していると、いつの間にか野鳥に食べられてしまうことがありました。種が多くて、腹に溜まるものではありませんが、口の中に広がる甘みは、一番の御馳走でした。種を噛むと苦いので、口の中で選別し、種だけを勢いよく吐き出しました。最近、庭の管理をしてくれている人が根本から伐ってしまい、秋の味覚を楽しめなくなりました。
『かぎっこの木』 正式名はミズキです。1月15日の小正月に繭玉を付けて飾る木ですが、真冬でも枝先が赤いことから神の宿る神聖な木とされたと思われます。さらに、ミズキの名のとおり、冬でも幹を伐採すると樹液が噴き出て来ることから、豊作の予祝にふさわし木であったのでしょう。赤い枝先から鉤型に小枝が出ますので「かぎっこのき」と言っていました。
『ばらぐみ』 棘のある茱萸(ぐみ)というので名前が付きますが、グミの仲間とは別のキイチゴの仲間です。梅雨の終わりごろ、黄色い実が熟すので、棘に気をつけて思う存分食べられました。同じバラグミでも、真夏、乾燥した道の脇に赤い実を着けるものもありましたが、こちらは実が小さいうえ、甘みに欠け魅力的ではありませんでした。
『てんぽなし』 ケンポナシが正式の名前です。集落では1本だけ、川の崖上に大木があり、初冬にお菓子のカリントウの曲がったものがいくつか貼付いた形の実が落ちてきます。ナシとは言っても普通の梨の形とは全く似ていません。味がナシに似ていての命名です。
『しぶがき』 屋敷に渋柿の古木があります。渋柿は防水や防腐剤に使われましたから、甘柿よりも重要なものでした。今では全く利用しないので、晩秋に赤く熟した実は小鳥の餌になっています。また、干し柿用の蜂屋柿が何本もありましたが、その中に1本だけ「キンタマガキ」という細長い実の柿がありました。これは受粉用の渋柿で、秋になっても甘くなりませんでした。秋空を目指すようにして竹竿を伸ばし、落とさないように柿をもぎったことも過去になりました。
『寒竹』 地域で1箇所だけに寒竹が自生していました。細い寒竹を何本か合わせたもので笊(ざる)を作ります。当時は自宅で葬儀をしましたから、弔問客に振る舞いのうどんを出しました。水切りが良く貼付かない寒竹笊に、茹でたうどんを一人分の「ぼっち(小さい山)」にして弔問客に振る舞いました。うどんが苦手であったことから、寒竹笊は葬儀を連想させます。

bottom of page