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27 感情:感覚表現 その1

感情を表す言葉は心の響くため、今でも鮮明に記憶しています。子どもの頃に聞いた表現には思わぬ由来があり、改めて八溝のことばの奥深さを実感します。粗野であることが強調されますが、江戸言葉などが伝播したものも多くあります。
『いいやんべ』 「良い塩梅」の転訛したものです。塩梅は料理の言葉を語源とし、味加減のことです。そこから広く物事の具合を意味し、「いいやんべなお湿りで(よい時期の降雨で)」と、良い意味で使います。ところが、あれこれ言い訳をしていると「いいやんべなことゆってんじゃね(でたらめ言ってるんじゃない)」と𠮟られます。「いいやんべ」は都合に合わせて広い意味で使いましたが、𠮟られた言葉という印象が強く残っています
『こうしゃぐ 』「講釈」の濁音化で、もとは物事の道理を説き聞かせることです。江戸時代に専門的な講談師が長々と語って聞かせる話芸となり、そこから単に長話しをすることの意味になりました。注意されたのに長々と言い訳をしていると、「いづまでも講釈かだってんじゃね(いつまでも言い訳語ってんじゃない)」とさらに怒られました。もともと深い意味のある「講釈」が言い訳や軽口のようになってしまいました。
『けたくそ』 卦体(けたい)の転訛した「けた」に、罵りの意味の「くそ」が付きました。卦体はもともと占いの易の用語でしたが、やがて縁起という意味になり、嫌な感じがするというように変わりました。さらに「くそ」が付いて、不愉快であることを強調した意味になり「けったくそわりー」と使います。元は深い意味のある言葉です。
『いじやげる』 「意地が焼ける」の「が」の省略されましたものです。「意地」は、本来善悪にかかわらず、心根のことでを指しましたが、「意地が悪い」とか「食い意地が張る」とか、負の感情表現になり、「意地が焼ける」も気にくわないという意味で使われています。中学生になる頃は、些細なことにも「いじやける」ことが多く、心が不安定でした。
『つっけし』「突き返す」が転訛したものですが、物を突き返すことでなく、子どもが年長者に対して意気込んで反論することです。日頃から素直でなかったので「つけっしばーしゆってんじゃね(言い訳ばかり言ってるんじゃない)」と聞き入れてもらいません。
『へんかかえす』 古典に出てくる「返歌」が語源と思われます。相手から送られてきた歌に対する返答の歌の意味ですから、古事記にも載っています。由緒ある言葉が狭い意味の反論という意味になったと思われます。理屈の通らない言い訳をすると「へんかすんじゃねー」と怒られます。由緒ある言葉ですが、子どもにとっては単なる𠮟られ言葉でした。
『ねじぐれる』 「捻れる」が語源であるが、「ねじぐれる」という時は、心がねじ曲がって、素直でないことを言います。親に𠮟られてもしばしば反抗的になっていたので、「またねじぐれてんだがら」と、重ねて𠮟られました。

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