「体験的八溝の言葉抄」をまとめるに当たって

<柱時計:時を刻んていたが今は
ゼンマイをまく人がいない>
「体験的八溝の言葉抄」は、中山間地の歴史の中が大きく動き出す直前の昭和30年前後に使われていた言葉を取り上げました。方言ばかりではありません。県内に多く使われている言葉や共通語であっても、当時の地域の人たちの生活を知ることのできる言葉はできるだけ採録しました。小学校の6年生が体験したことですから、勘違いも多くあるはずです。それでも、今よりも地域の人間関係や家族の繋がりが濃密であり、取り巻く自然環境も豊かでした。その時期に経験したひとつひとつの言葉に、子どもの頃の感性を思い起こして息を吹き込みました。
言葉一つ一つについて辞書で確かめました。その結果、単なる方言かと思っていたものが、遠く離れた九州と当地方の、いわば地域限定であることも分かり、興味はさらに増しました。語源については、元の言葉からの変化を知るうえで参考になるので、明確なものについてのみ記しましたが、過誤も多くあるはずです。読者諸氏によって加除訂正をしていただければ幸いです。
「抄」としたのは、まだまだ採録漏れの言葉も多くありますが、それでも、時代が大きく変わる中、とりあえずまとめておくことが必要だとの認識からです。また、急ぐことの個人的な理由として、頑強ゆえに油断して、昨年1年間、急性白血病により長期の入院を余儀なくされたことにあります。再発の心配もあります。途中雑になっている箇所があるのは抗がん剤の副作用で持続力が減少しているためだと御容赦ください。紙ベースでの出版でないのは、時間が掛ることと、紙数の関係で割愛する言葉が出ることを危惧したからです。
なお、文中に改めて記載してはいませんが、元鳥取大学教授森下喜一先生の『栃木県方言辞典』を参考にさせていただいたのは言うまでもありません。改めて碩学の森下先生から「栃木の方言」への情熱の深さを教えられました。
参考文献
『広辞苑』 新村出 岩波書店
『旺文社 国語辞典』 和田利政他 旺文社
『旺文社 古語辞典』 和田利政他 旺文社
『全国方言辞典』 東条操編 東京堂出版
『栃木県方言辞典』 森下喜一 桜楓社
『栃木方言の源を訪ねて』 森下喜一 随想舎
『新日本言語地図』 大西拓一郎編 朝倉書店
『全国方言一覧事典』 大久保正義他編 Gakken
『ひと目でわかる方言大辞典』篠崎晃一 あかね書房
『とちぎの地名』 塙 静夫 下野新聞社
『地名用語語源辞典』 楠原佑介 東京堂出版
『馬頭町史』 馬頭町史編さん委員会 馬頭町
『栃木県民俗事典』 尾島利雄 下野新聞社