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22 食味と食感

豊かな食材とは言えませんでしたが、自然の恵みを受けながら、四季折々の食を味わうことが出来ました。市販の調味料はなく、味噌も自家製でしたから各家庭によって味が違います。嫁もらう時は先方の味を確かめてからと言われましたが、手遅れになりました。
『いごって』 えぐみが残っていること。「え」か「い」かは区別がつかず、口を開けずに「いごって」と発音していました。タケノコやゴボウなどを十分灰汁(あく)抜きをしないと「いごって」味になります。自家製のコンニャクも重曹が十分抜け切らないものはえぐみが残っていました。冬越しのホウレンソウも「いごって」と感じることがあります。
『歯ぬかり』 うどんやそばも手打(ぶ)ちでした。婆ちゃんの捏ねたうどん球に烏山和紙を被せて足で踏んづけて粘りを出す手伝いをしました。手抜きならぬ足抜きをすると腰のないうどんになり、食べると歯の後ろにべたつき感が残ります。真面目に足踏みをしなかったことが直ぐに分かってしまいました。専門のそば屋さんでも歯ぬかりするものがあり、きちんと打っているかどうか判断がつきます。
『あだじょっぺ』 「あだ塩辛い」の転訛で、「あだ」は徒の字を当て、必要以上に塩が利きすぎて「しょっぺ」過ぎることです。普段から調味料は使いませんから、素材の味と添加する塩が食べ物の味を決めます。塩加減を間違えて加え過ぎると、やたら塩味だけが口に残る「あだじょっぺ」味になります。今は調味料がたくさん出ていて、「あだじょっぱい」ことがありません。健康上も塩分控え目にしていますから、物足りなさを感じます。
『すっけ』 「スッカンボ」はスイバ(酢葉)のことで、「すっけ」ものの代表です。たぐわんこーご(沢庵香香)なども古くなると「すっけぐ」なります。子どもの頃から「すっけ」ものは不得意で、梅干しも好みませんでした。
『こそっぺ』 喉越しがなめらかでなく、ごそごそする食感のことです。反対の語はなめらかな食感は「なめっこい」です。畑作地であったことから陸稲(おかぼ)が多く、田の米に比べて粘り気がなく、ザラザラして喉越しが悪く「こそっぺ」感じがしました。
『こわっち』 「強い」の転訛。小学生の上級生になるとカマドに羽釜を掛けて、薪での御飯炊きをしました。水に漬ける時間や水の量、火の加減によって、「こわっち」過ぎることもしばしばでした。麦飯の固いのは家族から嫌がられます。反対に「やっけ(柔らかい)」過ぎるのも「べちゃついて」おいしくありません。
『すえくせ』 饐(す)え臭いことで、食べ物が腐敗して酸っぱくなり、臭うことです。盆の月の8月1日の「釜の蓋」の炭酸饅頭は、蝿帳に入れて涼しいところに置きましたが、直ぐ饐え臭くなりました。食べられるかどうかは、五感の内の聴感覚を除いて、見て触って、さらに臭いと味で判断しました。それでもしばしば「腹っぴり(下痢)」になりました。今でも賞味期限が切れているものを臭いと舌先で確認して食べています。

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