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20 食べ物の名前

物流が未発達で、しかも経済力に恵まれない地域での食生活は地産地消を強いられました。反面で、地域でしか食べられなかったものもあり、子どもの時の食生活は一生の財産です。
『かんぷら』 ジャガイモを「かんぷら」という地域は、方言分布の重要な境界となっています。かんぷらは那須と芳賀の那珂川流域、茨城東部から福島にかけて使われ、共通の経済圏が想定されます。なお東北各地では「あっぷら」と言いますが、オランダ語の「大地のリンゴ」の「あんぷら」が伝播し、「かんぷら」に転訛したと考えられます。ジャガイモの語源はインドネシアの地名ジャカルタが変化したものであると言われています。
『とうなす』カボチャはカンボジアの転訛だと言いますが、八溝ではトウナス(唐茄子)でした。「冬至唐茄子」と語呂合わせがあったので、古くから広範囲での呼称でと考えられ、カボチャよりも趣があり、しかも深い理由のありそうな名前です。お菓子がない時代でしたから、砂糖を加えた唐茄子は夏のオヤツの代表と言えるものでした。
『おでん』 コンビニのおでんでは選択に迷うことがありますが、八溝のおでんは「べったらコンニャク」でした。すべて自家製で、蒟蒻球を掘り起こし、摺り下ろして重曹を混ぜ、鍋で煮た後に水で曝して作りました。カルタほどの大きさにして真ん中を串で刺し通し、甘味噌を付けたものが「おでん」です。語源は室町時代の舞楽の「田楽舞(でんがくまい)」に遡るので、八溝のおでんの形状は語源に近い形状のものです。
『つぶしむぎ』 押し麦のことです。毎日の主食のご飯は麦の割合が多いことが普通でした。精麦した丸麦は水が浸透しにくくいので、前日に鍋に入れて囲炉裏に掛け、「いまし麦」にします。時間も手間も掛かります。やがて、加工段階で加熱して圧力を掛けて平らにした「つぶしむぎ」が普及し、「います」必要がなくなり、消化吸収も向上しました。
『おごふ』 「御護符」の漢字を当て、神仏からいただく守り札のことを指していました。八溝の少年たちにとって「おごふ」は神仏からのお下がりの食べ物のことです。神仏の加護よりも、普段は口に出来ないお供え物のお下がりに関心があり、食べ物の方に意味も変わりました。甘い饅頭などが供物の「おごふ」が心待ちでした。
『こじきじる』 「乞食汁」のことで、御飯のおかずのネギ味噌にお湯を加えた即席の味噌汁です。飯茶碗は洗わず、ネギ味噌や梅干しを入れたお湯できれいにしてしてから箱膳に伏せて戸棚にしまいました。水瓶の水を使わず「あらいまで:炊事」をする主婦の手を煩わさないための工夫です。昨今の即席味噌汁は乞食汁のドライ化したものとも言えます。
『かてめし』 「かてて加えて」とあるように、「かてる」は加えることの意味で、「粮飯(かてめし)」は米不足を補うために根菜類を混ぜて量を増やしたものです。「浪人飯」も大根などの入った「かてめし」の一種で、貧しい人の食べることからの命名です。

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