10 八溝に定着した外来語
テレビや新聞が普及していない時代、特に外来語は本来の発音とは違って定着したものがたくさんあります。八溝の外来語にも、本来の発音や意味とが違ったものがあります。
『ぴんや』 橋脚周辺には洪水によって削り取られた「深んぼ」があり、魚が集まっていて魅力的な場所でした。「ピンヤに行くべや」といって、水中をよく見るためのガラス箱とヤスを持って橋の下に行きました。ピンヤは英語のPierで、橋脚のことです。架橋技術とともに導入され、現場の人たちが使っていたのでしょうが、外来語であることの意識はなかったと思われます。今は橋脚と言っていますが、北陸自動車道の親不知付近には、海に橋脚を建てた「ピアパーク」というサービスエリアがあります。本来の発音です。
『さぶろ』 英語のShovelシャベルが「さぶろ」に転訛したものです。ホームセンターには雪スコや角スコなど、江戸時代に伝わったオランダ語の「スコップ」が定着しています。しかし、地方まではスコップという言葉が伝播せず、明治以降のシャベルが用いられ、八溝では「さぶろ」となったと思われます。まだまだスコップとシャベルが併存していますが、ショベルカーなど原音に近いものになり、やがて変化していくのでしょうか。ただ、「さぶろ」は高齢層だけの言葉になっています。
『けっちん』 善意のつもりの言動が相手に伝わらず、反対に受け止められ、かえって責められた時などには「けっちん食った」と言います。「けっちん」は英語Kickingが日本語化したもので、内燃機関の専門用語です。なぜか発動機を始動する際、フライングホイール(弾み車)を回すと点火ポイントがずれ、反対に回転して大きな反動を受けます。「けっちん食う」のです。内燃機関の専門用語であったものが、農機具の普及とともに日常の言葉として定着しました。発動機と精米機を繋ぐベルトをクロスさせて掛けて反転させていました。
『ていらー』 戦後、アメリカのティラー(Tiller)社が耕耘機を日本国内で生産を始め、「テーラー」として広く普及しました。テーラーによって重労働から解放し、農村に新しい時代をもたらしました。テーラーの牽くトレーラーに乗せてもらうのが楽しみでした。その後、日本メーカーのマメトラやシバウラが優位となり、テーラー製はなくなり、耕耘機の代名詞としての名前だけ残りました。ただ、最近は大きなトラクターや小型の管理機に取って代わられ、「テーラー」という言葉も無くなりつつあります。
『りゅーむ』 英語のRimが転訛したものです。八溝では、手術は「しりつ」と拗音を発音しないことが多いのに、これは反対に「りゅーむ」となりました。壊れた自転車の車輪からタイヤを外し、ホーク(スポークのこと)を取り除いてリュームだけにします。溝に合う棒でバランスを取り、巧みにカーブしながら走ります。物がない時代は何でも遊び道具になりました。チューブはパチンコのゴムに、タイヤは竹籠の補強に再利用しました。