08 本との出会い
月に1度、本を買うためバスに乗って町に行くのが楽しみでした。温かく迎えてくれた本屋さんはなくなりましたが、出会った本が今の自分の土台になっています。
『おもしろブック』 昭和30年前後、少年向け月刊雑誌『冒険王』や『少年画報』などが発行部数を競い合っていました。「猿飛佐助」、「天兵童子」、「笛吹童子」が人気でしたが、中でも、ラジオでドラマ化された「赤胴鈴の助」は一番の人気でした。夕方になると遊びから急いで帰り、ラジオに合わせて「剣を取ったら日本一に」と主題歌を歌い、自分を鼓舞していました。本との出会いが『おもしろブック』や『少年画報』だったため、真田十勇士などの戦国英雄「オタク」になりました。なお、『おもしろブック』連載の笛吹童子の主題歌は、著名な画家青木繁と福田たねの子で、芳賀町で少年時代を過ごした福田蘭童の作曲です。「ひゃらりひゃらりこ」と始まる歌は今でも覚えています。
『少年ケニヤ』 村ではまだ新聞購読者が少ない時代でしたので、昼近くに帯封に巻かれた新聞が郵便で届きます。親に無理に頼んで、絵物語『少年ケニヤ』が連載されている新聞に変えてもらいました。絵物語はマンガと違って挿絵のある小説です。アフリカ駐在員の子ワタルは戦争で親と離ればなれになり、マサイ族に育てられて成長し、ヒロインとの出会いがあり、悪神との闘いなどで活躍します。八溝の少年も、ワタルの活躍に触発され、海外の未知の地へ憧憬を強くしました。
『人間の壁』 新聞がまた以前のものに戻りました。理由は、父親が読む連載小説が掲載され始めたからです。昭和30年ころまでは教育制度が安定せず、様々な混乱が起きていました。そんな背景の中で石川達三の『人間の壁』の連載が始まりました。教職員組合を題材にしたもので、管理職であった父親は深刻な顔で読んでいました。中学生になっていましたから、父親の読んでいた連載に関心があり、学校から帰ってくると、郵便の帯封を外し、父親より一足先に読みました。新聞を読みながら社会に関心を持ち、一人でいることが好きになり、仲間とつるんでの山や川での遊びを卒業していきました。
『現代日本文学全集』 昭和20年代後半から配本された筑摩書房の全集本が今も書架に並んでいます。70年近く経ち、箱は黒ずんでいますが、中の上製本はセロファン紙に包まれたままで痛んでいません。難文の森鷗外などは読めませんでしたが、石坂洋次郎の『青い山脈』や芥川龍之介の『鼻』に夢中になりました。小さな中学校だったため、中3の時には国語担当が父親になり、自然に自分も国語の教員になっていました。終活の時になりましたが、父親の残した全集は処分できずにそのままにしてあります。